#2.親友以上のなにかだった人
「また明日。」
この言葉を何回交わしただろうか。
あの頃何度も聞いたこの言葉はもう十年くらい聞いていない。
小学生のころ、私は学校のサッカーチームに所属していた。幼稚園児のころから続けていたこのスポーツは特別得意なわけではなかったが、毎週土日に友達とグラウンドを走り回るのはそこそこ楽しかった。
ある日、学年に二人の兄弟が転校してきて、二人ともサッカーチームに入った。二人ともサッカーが得意ですぐにチームに溶け込んだが、一人はまた転校し、残った彼は父と学年が上の兄との三人家族だった。
彼はとてもサッカーが得意だった。足が速く技術もあった彼はすぐにチームの攻撃の一角となった。
彼は優しかった。試合や練習でミスをして落ち込んでしまう私を何度も励ましてくれた。
そして負けず嫌いでもあった。何度転んでも懸命に走る姿はとても雄々しく、他人の分まで返してしまうほどに強かった。
今見返すとまさに不釣り合いだったであろう二人は親しくなるのに時を必要としなかった。
私が通っていた近所のフットサルクラブに彼も来るようになり、一緒に上のコースにチャレンジするようになった。家でゴール集のビデオを見てはしゃいだりもしたし、私一人では絶対に行かなかったであろうチームの朝練に眠い目をこすりながらも行くようにもなった。
こうしていつの日か彼は私にとって、親友や幼馴染を凌駕するなにかとなり、ともに時を過ごしていくのが当たり前だった。
「今度引っ越すことになった。」
それは唐突に両親から告げられた言葉だった。
それを聞いた私はどういった感情を持っただろうか。
父親の転勤がいつ頃告げられ自分がどう過ごしたか驚くほどに覚えていない。
数少ない記憶は、幼馴染の女の子に家族ぐるみで送別会をしてもらったこと、引っ越した後に行われる学芸会の練習は『監督』という立場で参加したこと。
そして、家を出る当日に彼が駆けつけてくれたこと。
引っ越してから数年、彼との手紙はいつの間にか途絶えた。
時折彼を思い出しては切なくなりながらも、何か大きなことを成し遂げてから胸を張って会おうと前を向く。
きっと彼はそうして前を向くはずだから。
完
こんにちは、ふっこです。記事をお読みいただきありがとうございます。
彼との思い出は語りつくせないほど多く、一緒に夕食前に買い食いしたカロ〇ーメイトが至高の味だったことですら忘れられない思い出です。
この多くの思い出をいつまでも大切に。